2009年12月

2009年12月22日

  そこは何もない場所で、舗装道路が遠くの山並みへ続いていた。頭上の空はどんよりと鬱陶しい雲に覆われていて、今にも一雨来そうだ。電信柱が一本、それも古い木製の柱が立っている。道の左手には雑木林があり細い道が林の中につけられていた。僕はなんとなく惹かれてその道に分け入った。

 気がつくと、渓流に沿って歩いていた。かなり流れの早い川で水は限りなく青く、向こう側は切り立った山になっている。そのまま歩いていくと人の声が聞こえてきた。何人かの外国人が木の船で渓流下りをしている。観光地の船下りのによくある船のようで、そんな船で素人が遊んで大丈夫なんだろうか。なんて思っていると、
 「一緒にやらない?」
と声をかけられた。ちょっと面白そうではあったが
 「ありがとう、でも行くところがあるから...」
と、やんわり断った。
 「そう、じゃあまたね」
彼女はそう言って、また仲間のところに戻っていった。

 そのまま少し行くと右手に鳥居があり、石段が杉の林の間につけられている。
 「どちらへ行かれるんですか?」
突然不自然な日本語で声をかけられ驚いたのだが、もっと驚いたのはその人が神主だか宮司だか(その辺の区別はよくわからない)の格好だったことだ。まあでもよく考えれば場所柄不思議でも何でもないのだが。声の主は緑色の瞳のやさしそうな青年だった。

 「いや、ただなんとなく歩いてるだけです。」
 「そうですか。ではこの上にある神社のそばから温泉街を通るバスが出ていますので、その路線図を作ってみませんか」
 「路線図?」
 「そうです。バスは走っているのですが路線図がまだできていないのです。」
変な話だなとは思ったのだが、なんとなく興味を抱かせた。
 「この石段を上がっていけばいいんですね」
僕が言うと、彼はニコニコしながら言った。
 「では、お気をつけて」

 バスはすぐに来た。
乗ったのは「神社前」というバス停で「温泉上」、「温泉中」、「温泉会館前」と順番に通過していく。いつもの僕だったら絶対に一風呂浴びるところだが、なんとなく路線図を作るという使命感に燃えていたのでそのまま乗車を続けた。「温泉下」、「温泉入口」と来たところでバスは停車した。ここまでの停留所はあまりにも安直な名前で覚えやすいが、この先はどうなのだろう。すると、
 「今日はここが終点です。」
と、アナウンスが流れた。今日は、ということは普段はもっと先まで運行しているのだろう。降りるときに運転手に聞くと、この先は週に一回のみの運行だという。ならばもう少し先まで行ってみよう、と思いその先の道を聞いて歩いてみることにする。

 道を聞くといっても一本道でそれしか道がないのだから迷いようがない。温泉街を外れると、どこにでもありそうな畑や田圃の中を行く道だ。家もなくなり、周りはただの野原になってきた。まだ次のバス停はない。道の舗装も途切れて、砂利道となった。まもなく朽ち果てた白い看板が目に入った。「自然農園」と書いてある。気がつくとそこにバス停があり、やはり「農園前」という停留所だった。農園といっても雑草に覆われた土地があるだけで事務所も民家もない。でもバス停の名になるくらいだから、昔はもっと活気があったにちがいない。いや、もしかしたらこの雑草だらけに見えるところがそもそもの「自然農園の畑」なのかもしれない。なんとなく気にはなりながらも僕は先を急いだ。

 だんだん道もひどくなってきて、水たまりを歩くようになった。こんなところをバスが通るのだろうかと思いながら左に大きくカーブする道を進んでいった。ゆるい下り傾斜になった道は、このあたりまで来るとほぼぬかるみ状態だ。しばらく行くとこれもかなり朽ち果てた木戸があり、「関所前」というバス停があった。そこにはまた高札のようなものも立っていて、
 「ここは株式会社〇〇農園の管理地ですので通行には許可証が必要です。許可証は農園の看板の下にあります」
 と書いてある。株式会社というのに違和感もあったし、そのまま行っても大丈夫かとも思ったが、後で何かあっても困るのでさっきの場所まで戻ることにした。

 看板のところまで戻ってよく見ると、「自然農園」という大きな文字の下に『完全自然農法の農園、分譲中(1反500万円より・営農指導付)。 周囲の環境に影響が及ぶので自然農法を守れる方に限ります。 〇〇農園』とあった。こんな場所なのにずいぶん高いんだな、と思いながらも一番下にあった「通行許可証はこちら」の箱からそれを一枚取り出した。

 また水たまりの道を戻ると左にカーブしていたところの右側に、先ほどは気づかなかったのだが白い建物があった。人工の大理石かなんかでできていて、こんな場所には不似合いな建物だ。近づいてみるとまるで地下鉄の入り口のようなつくりで白い階段が地下へと降りていっている。僕はバス路線図のことをすっかり忘れて吸い込まれるようにその階段を下りていった。

 下からはひんやりした風が上がってくる。何度かコの字に曲がって降りていくとさっきの青い川沿いの道に出た。でもそこは洞窟のようになっていて、まるで鍾乳洞の中の流れのようだ。それにしては昼間のように明るいのもおかしいのだが、実際そうなのだから仕方がない。不思議に思いながらも歩いていくと、まだ外国人たちは川で遊んでいた。
 「またきたのね」
 「やぁ、また会ったね」
さっきの彼女と話していると、後ろから声をかけられた。
 「どうでした?」
なんとあの緑眼の宮司が今度は牧師のいでたちで立っていた。
 「いや、歩いてきたらまたここへ出ちゃって....」
バスの路線図の件があったので、なんとなく後ろめたい感じがしてそう答えた。
 まわりを見渡すが、もう鳥居も石段もない。そこで、ようやくこの事態の異様さに気がついた。
 「でも、なんで......」

青年牧師が洞窟の天井を見ながら言った。
 「ほら、あそこに鍵穴があるでしょう。あれがココロのカギ穴なんです。そのカギが上の世界とここを繋いでいるのです。それを知ることはとっても大切なことなのです。」
 僕は眼を凝らしてその方向を見つめた。が、どこにその鍵穴があるのかは分からない。不思議な模様を浮かべてた鍾乳石をずっと見ているうちにめまいがしてきて、僕はその場で倒れこんだ。

 気がつくと僕は最初の雑木林の脇の舗装道路にいた。電信柱も空模様も何も変わっていなかった。

 僕はひとりぽつんと立ちながら、今日のできごとのことを考えた。この世界にはいろいろな人や、動物や、植物が生きていてそれぞれが鍵や鍵穴を持っていること。そしてそれは時に合ったり合わなかったりするように、日々何かが変わっていくこと.....
 でもきっと僕たちは誰かの「ココロのカギ」を開けることで自分の「カギ」を開けてもらったり、またその逆のことをするために(したりしながら)生きているのだと思う。
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 夢は何らかの現実世界からの投影なのだという。
 きっと睡眠中に「ロスト・トレイン」のストーリーが頭の片隅を支配したのかもしれない。 


mackkmackk55 at 21:07│コメント(1)トラックバック(0) | 

2009年12月15日


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 四国のドライブは快適とは言い難いが、断然楽しい。そこでは海岸線から少し内陸に入るとすぐに山間部を走ることになる。それも暗い谷の間だったり、深い森の中を抜ける峠があったり、また棚田が重なる山里だったりするから....。快適と言い難いのはそのような土地を走る道であるため、国道といえども狭い道が多くすれ違いに苦労するからだ。
 
  沿道にぽつりぽつりと現れる集落は、都会からきた旅人には何か懐かしい感じを抱かせる。狭い陸地に剣呑な山々の並ぶ四国山脈が東西に伸びていて、そこからいくつかの河川が海に向かって流れている様が日本列島の縮図のようであるからとか、有名な八十八の札所の存在ゆえとか無理やりこじつけたような理由を考えたくなってしまう。
 
  今回は四国一の標高を誇る石鎚山の南側にある「面河渓」を訪ねた。当初は赤石山系のどこかに登ろうかと思っていたのだが、11月も中旬に012_11なり日も短くなるし、寒さも厳しくなってくるので日和って観光旅行に切り替えたのだった。
 
 松山から国道33号線を南下、砥部町を経て久万高原町に入っていく。久万町で左折して岩屋寺を通り、直瀬川に沿って進んでいくと面河川との合流点で突きあたる。今度はその面河川を遡上する道に入って石鎚スカイラインを右に見ると面河渓の入り口である。
 そこにある面河山岳博物館に車を止めてまずは博物館を見学、地図と予備知識を入手した。

 渓谷沿いの遊歩道を歩いていくと、清冽な流れが清々しい。思ったより観光客は少なくその点も好ましい。この辺で紅葉は盛りを少し過ぎたところ、ということはおそらく一週早ければ結構な人出だったに違いない。もっと上流ではもうほぼ散っているのだろうか。

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  のんびり15分ほど歩くと車道に出て、そこからしばらくはその道を行くしかない。その間、何台もの車が僕たちを追い越していく。何だ、みんな一番奥の駐車場に車を止めるのか。どうりでさっきの遊歩道が空いていた訳だ。

024_23  しばらく歩くと川の対岸に国民宿舎が見えてきた。かなり年季の入った建物だ。若かりし頃、いろんな場所でお世話になった公営国民宿舎を思い出す。周辺は浅瀬になっていて、「五色河原」と呼ばれている。ガイドブックによると水の青・苔の黒・岩の白・藻の緑・紅葉の赤の5つの色で彩られるところから名付けられたそうだ。道は国民宿舎の先で渓谷に沿って二手に分かれている。左俣の流れは鉄砲石川といって色々な岩や滝があって面白そうだが、今回は初めての訪問でもあり敬意を表して(?)面河川本流沿いの道を行くことにした。
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 ちょうどそのあたりで12時前になったので腹ごしらえにと、「渓泉亭」という食堂に入った。
 アメゴの甘露煮がのっているという面河うどんの昼食。四国のうどんはどこで食べてもコシがあってよろしい。つゆは若干甘かったのだけれどね。


046_7 食堂を出てすぐに橋があり右岸へ渡る。徐々に勾配も出てくる道を辿っていった。最近山に行ってなかったので木々の香りが懐かしい。枯葉を踏みながらフィトンチッドを思い切り吸って歩いていく。第一キャンプ場を過ぎちょっと行くと紅葉河原というところがあった。ここでご婦人が二人、一人はスケッチ一人は写真を撮っている。僕らもそこで一休みだ。
031_30 水の流れは小気味よい。そこで僕たちも10分ほど休憩、のんび~りする。

 どんどん歩いていくとまたキャンプ場があるが、まぁこの時期もちろん誰もいない。(ここには新しいバイオトイレがあって、帰りにお世話になった。) 
 
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  その先には下熊渕・上熊渕という二つの渕があり、そこからすぐが石鎚山への登山口だ。この夏月山で会った山口県の方が、石鎚に登るのはこの道がいいと教えてくれたのだ。前に登った時にはお定まりの成就社からのコースだったので次回はこの道を辿ってみたい。

055_16053_14  もう一度橋を渡ると、まだ道はつづいているものの通行止めになっている場所に到着。ここにあったのがこの「虎ヶ滝」。ここには東屋があって休憩できるようになっているが、地図に書いてあるWCはなかった。

 帰りは展望台のあるコースを迂回して帰ったのだが、これは結構山登りに近いアルバイトを強いられる。それでも久しぶりの山歩きに気分は爽快、気持ちよくパノラマを眺めながら着いた先はさっきの国民宿舎の裏手だった。



mackkmackk55 at 23:46│コメント(2)トラックバック(0) │

2009年12月10日


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この秋の我が家の”ブーム”でした。

毎年Tさんから頂くご自宅で採れる銀杏。いつもわざわざ一粒ずつ割れ目を入れてくれるので、本当に大感謝です。そして、今年は!「銀杏ごはん」の作り方を教えてもらったのでチャレンジしました。もちろんそのまま食べてもおいしいけれど、これは大ヒットでした。銀杏のもちもちっとした食感がご飯にとっても合うんです。

作り方は簡単。
封筒に入れてレンジで1分加熱した銀杏(あっ、もちろん殻に割れ目を入れておいてくださいね)の殻を剥いてお米と一緒に炊くだけ。その時、塩一つまみと昆布一切れを入れるともうそれだけで立派な一食です。キノコや鶏肉、牛蒡などといっしょに普通の炊き込みご飯にしてもおいしいけど、僕は断然この塩味だけのシンプルバージョンがお気に入り。今年は6回も食べました(うち1回が具だくさんのしょうゆ味)。

今シーズンには間に合わないかもしれませんが、是非試してみてください。
(Tさん、来年もよろしくお願いしまーす!ははっ)


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ものの弾み?でむかごごはんも作りました。






【おまけ】ご飯ネタついでに....
デビュー3年目に突入した我が家のおひつです。ohitsu


これは那須の三斗小屋温泉に行った時、おひつで頂いたご飯のおいしさに感激して導入したものです。ウチでは羽釜とガスで炊いてるんですが、ちょっとむらした後でこのおひつに入れると木が湿気を吸ってくれて、ちょうど食べごろにしてくれます。



mackkmackk55 at 21:00│コメント(0)トラックバック(0) | 

2009年12月04日

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ふらっと立ち寄った書店に平積みされていたこの本。廃線探訪をめぐる物語らしいが、タイトルとカバーデザイン(「銀河鉄道の夜」を彷彿させる)に惹かれて購入した。

小河内線跡場面で偶然出会う”ぼく”(語り手)と平間さん、そして途中から登場する菜月さんの3人の人生が微妙に交錯するさまに引き込まれ、2日間で読み終えてしまった。

吉祥寺のパブレストラン<ぷらっとほーむ>での平間さんの言葉は宮沢賢治の童話のようだし(でもそれは「銀河鉄道・・・」のではなくて「なめとこ山の熊」や「よだかの星」のようなやさしい語り口)、旅行代理店に勤める「鉄子」の菜月さんもちょっと変わったところがある。そんな2人と優柔不断な"ぼく”。それぞれが自分の「居場所」を求めて続けていく旅、それが「誰も知らない廃線跡」を捜す旅と重なる。

本編は2部構成になっていて、リアリティある前半部がファンタジックな(ある意味奇想天外でもある)後半部を支えている。そんな後半部はとても視覚的で、テンポよく進むストーリーも映画のように流れていく。結末は感動的だが、エピローグの最後の2ページが僕にはとても印象的だった。

(著者は昨年の日本ファンタジー大賞受賞者だそうで、それを知るとこの後半部も納得です。)


mackkmackk55 at 19:53│コメント(0)トラックバック(0) |